対人恐怖症の職員と出会って 

 「実は、自分は対人恐怖症なんです。今、うつ病とも診断されていて精神科に通院しています。病院の先生には“仕事はしばらく休んだほうが良い”って言われてしまったんですけど、どうしていいか分からないんです。主任、どうしたらいいですか?」


 特養で主任をしていたときに、自分の部署の職員からこんなふうに打ち明けられたときは、正直どうしていいか分かりませんでした。



対人恐怖症って何だ?


 対人恐怖症とは、分からない人には全く分らないのも特徴です。人から見れば何でもない、でも自分にとってはただ事でない、時には他人から見れば「ただ甘えてるだけなんじゃない」って思われてしまって、他人との溝を深めてしまうことだってあります。


一般的な症状は



・人前で緊張してしまう。
・他人の視線が気になってしまう。
・表情が引きつってしまう。手が震える。
・人の目を見れない。
・人前に出ると多量の汗をかく。
・息苦しい。何か圧迫されているような感じになる。
・吐き気をもよおす。
・うまく自分を出せない。
・人を意識しすぎて変な自分を作ってしまう。
・自分の嫌いな人の前に出るのがものすごく憂鬱になる。
・緊張のせいか体が妙にこわばって非常に肩がこる。



 この病気は本当に苦しいし、本人にとってみたら逃れられないという気持ちでいっぱいになってしまいます。原因はいろいろとありますが、他人が怖いのでは無く、人から自分がどう見られてるかが不安から怖く感じるという症状が主として挙げられます。その不安から、結果として体の異変も起こります。


 症状は上げたらきりが無いと思います。一般的な症状から見ると、ごく普通の生活でのストレスで、誰にでも経験したことがあるものでもあると思います。対人恐怖症の人は普段の悩みから、なかなか寝付けなくなり、また全く眠れなくなることも多いそうです。自分の職場にいたこの方も不眠がつづいていたそうです。


 一日中症状にまつわることで悩まされたり、他人と比べて自分の能力の無さに悩まされ、一日が終わると全く何もやる気がおきない。週末ももちろん自分を追い込むことから抜け出せなく、ものすごい憂鬱から抜け出せなかったりします。とにかく先を考えるのが怖く、このままの状態で一生が終わってしまうのではないかという不安や恐怖に苛まれる。自分の居場所が無いというのがとにかく辛いことだと考えてしまいます。


 対人恐怖は非常に厄介な症状です。精神科に行ったり、処方する薬を飲んだり、その他何としても状況を変えようといろんなことを試みるが、全く状況は変わらない人も多いといいます。どうにもならない状況から仕事などをいったん止め休息するが、気は少しは安らぐものの根本的な物が解決することはなく、社会復帰することでまた同じ繰り返しになってしまう人もいらっしゃいます。



対人恐怖症のもう一つの特徴


 対人恐怖は海外にはあまり見られない症状だといいます(他の恐怖症は別ですが)。 日本人は昔から、近所づきあいや上下関係を大切にし、他人あっての自分ということが教育され、習慣となっていたりします。協調性や調和を重んじてきたのだと思います。


 欧米では個性を大切にしています。いくら人前で少しくらい自分が人と違っていても気にしません。 ところが、現代においては、他人との協調が少しずれてしまい、それが原因で他人との関係に過敏になっているといわれています。それが現代日本にこの症状を拡大させている原因となっているのかもしれません。




人間関係とその問題解決には?


 人間関係とその問題は誰でも生涯必ずぶち当たる壁です。だから忘れてほしくないのは、誰でも悩むことであり、自分だけが特別なのではないということです。そして自分には能力がないと落ち込まないこと、例えば人間関係に悩んでいたとき、自分には能力がないという考えに縛られるのではなく、また、自分のおかれている状況を悪く意識するのではなく、自分に優しく、自分を大切にした考え方をするといいと思います。そして、症状に悩んでしまったら、すぐに専門家に相談することが一番だと思います。


 管理人の話に戻りますが、私に病気のことを打ち明けてきたこの職員は「この仕事が好きだから、仕事を辞めたくない。でも、病気が治るなんて絶対に言い切れない。少し休んだらって家族に言われたけど、休んで治らなかったらどうしたらいいかわからない。主任、どうしたらいいか決めてください。」といってきました。


 人事に掛け合い、事情を説明してこの職員の医師の意見と本人の意見を吟味して正職員からパートに就業形態を変更して、勤務時間を少し減らしてみて、今後の状態の変化をみることになりました。そして、改めて方向を決めようということになりました。しかし、勤務時間を減らしても、状況に改善はみられず、むしろ悪化していたので退職を決めてもらいました。実際には、自分で退職の決断ができないというこの職員に対して「退職して少し身体を休めてください」と、私が決断したのです。こういう決断はほんとに辛いですね。


 この判断が正しいものかどうか、自分には分かりません。でも、専門医が「仕事をやめたほうが良い」といっていたことが、判断の材料になりました。この職員がこれから主に関わっていかなければいけないのは私ではなくこの専門医だと思ったからです。


 対人恐怖症に思うことがあります。それは、
退職は負け組じゃないということです。対人恐怖という症状はうつ病からくる一つの病気の症状なんです。そして病気は悪いことじゃない。誰だって病気になったら休みます。風邪を引いたって休みます。休むことは悪いことじゃないんです。


 そして、もう一つは、うつ病、対人恐怖症についての理解をいろいろな職場でしてほしいということです。この職種は本当に「人と関わる、人を支える」という仕事であり、協調性が求められ責任ばかり大きい仕事です。つまりストレスを抱えやすい仕事なんですね。だから誰にだって対人恐怖の症状を持つ可能性があるのです。介護施設の職員は、「もし、自分と一緒に早番をする相手が対人恐怖症だったら」と、一度考えてみると、自分がうつ病、対人恐怖症という病気に対して理解があるのかそうでないのかが分かると思います。


 人間関係に悩んでいる人って、ほんとに多いと思います。


 そうした悩みやストレスについてしっかり考えることは、とても大切だと感じています。





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