身体拘束廃止への取り組み

 平成13年から私の施設(特養)でも身体拘束廃止活動を進めてきましたが、その取組みの状況をここで紹介してみたいと思います。ちなみに、私の働いている施設は入所54人ショートステイ16人の定員70床の施設です。2階建てのいわゆる既存施設ですね。


 当時、具体的な身体拘束行為をしていた利用者は、入所者のうち約20人ぐらいいました。一人の利用者に複数の拘束行為を行なっていることもありましたが、まずは,どんな拘束行為を行なっているのか把握することから始まります。
  • ベッドを4点柵などで固定する(3点柵以上を含む)
  • つなぎ服で皮膚のかきむしり等を防ぐ
  • 車椅子にベルトを使用して転倒を防ぐ
  • 手袋(ミトン)でかきむしりを防ぐ


 主に、このような拘束行為が多かったと思います。施設の委員会で話し合ったことは、「やっぱり慎重にちょっとづつ、拘束行為をなくしていくことが、事故防止にもつながる」ということだったんですが、介護職員の中で話し合うと、事故防止への過剰な意識も浮き彫りになってきました。例えば、ベッドからの転落の防止を考えて4点の柵と使用している状況も、はずしてみると、考えていたよりも危険が多いわけではなく、職員が「おそらく柵をしておいたほうがいいだろう」と決め付けているところがあったんだと思います。逆に4点から2点柵に変更することで、職員が「見守り・巡視」を意識するようになりました。


 結果が出ると、施設の考えも、「じゃあ、必要な物品も購入しよう」ということになり、ベッドからの転落が予想される利用者には、たたみ部屋を準備したりして対応しました。


 車椅子にベルトを使用して対応している利用者は、いきなりはずすのではなく時間を決めて少しずつはずす時間を長くしていくことで、職員全員がが状況を把握し、最終的には安心ベルトもはずすことができました。施設の共用スペースにソファーを設置し、座ってもらうと落ち着いてもらえる利用者もいましたし、車椅子上の座位の姿勢の保持が難しい利用者には、PT(理学療法士)に車椅子のサイズ(フットレストの高さやクッション、滑り止めマットの使用)を調整するといった対応をしてみたり、ここでもいえるのですが、いろいろやってみて、職員が利用者を観察するようになったことが、案外、一番おおきな効果に思います。


 今まで、いかに利用者を見ようとしていなかったか…なんて思う人もいると思いますが、今思えば、介護職員も、先入観が強かったんですよね。行動の幅を広げようとすることと、その方法を知らなかったということもあると思います。


 かきむしりやオムツいじりをする利用者もそうでした。つなぎ服をはずし、オムツいじり(弄便)や皮膚のかきむしりの発生回数の統計を取ってみると、ある程度発生時間や頻度は決まっていました。皮膚の清潔に向けての取組みや、排便リズムの確立に向けての取組みが自然とできたわけです。



取組みの評価と課題を考える

 取り組み始めてから、約一年で、具体的な身体拘束行為を行なう利用者はゼロとなり、一応の成果はあげることができました。目に見える利用者の行動制限は、一通り、取り除くことができたことに、介護職員は「やればできるんだ」という感想が一番多く、利用者を今まで以上に見ることができたのは一番の収穫だったと思います。


 制限を取り除かれた利用者は、今まで職員が知らなかった表情を見せてくれたりします。施設介護はチームケアです。職員間の共通の意識付けは本当に大変ですが、やっぱり成果が現れると、自然とチームとして動いてはいくんですね。最初は「そんなことやって本当に意味があるのか?」なんて陰で言う職員もいましたが、成果が出始めると、誰も何も言わなくなりました。それだけの成果が利用者に現れたんですよね。


 反面、目で見える行動制限は取り外すことができましたが、拘束行為をしなければならなかった原因について、もっと考えていく必要があります。利用者の行動障害といいますか、認知症の方は、やっぱり事故の危険を多く含んでいます。ですから、行動制限を行なわないということは、利用者もっている行動の障害にうまくつきあっていかなければならないということになると思います。
  • 行動の幅が広がった利用者に対して、画一的なケアにならないような工夫
  • 日常の生活を見直し、生活環境の中で利用者に合わせた空間の工夫
  • 職員の見守りの仕方の工夫
  • 行動障害のある利用者に対しての職員の対応(夜間など)の工夫


 上記のような工夫がポイントになってくると思います。


 人員不足という理由もありますが、利用者に危険が予測されるような場面では、「ちょっと待ってください」なんて、言葉でその方の行動を制限することがどうしてもあります。こうした言葉の拘束についても、考えなければいけません。また、例えばベットからの転落がある利用者に対して、ただ、畳の部屋に寝かせておくことを問題(原因)の解決とはいえません。


 その方が、なぜそのような行動をするのか、その原因を考えたり、職員が利用者の行動の障害を問題として受け止めることがいいことなのかどうか、その姿勢も考えなければなりません。


 ケアプランの充実は、今後の課題ですし、今行なっている食事、入浴、排泄などのケアの中にも、行動制限があるのかどうか、考えていかなければならないと思います。


 目に見える拘束の廃止から、目に見えない拘束の廃止。ここからが、身体拘束廃止のほんとうの取組みだったりするのかなあ・・・先は長い(^^)





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