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利用者のAさんは2002年で90歳を迎えます。介護度は5。いつもベッド上での生活が続いていたのですが、それは、わたしがこの特養で働くようになってからも、それから一年経過しても、変わることのない状況でした。 A氏さんには、入浴、排泄、食事など生活全般に介助が必要であり、肘、膝、肩、の関節は拘縮していて、寝返りも自分ひとりではできない状態でした。ただ、本人の表情から察するにある程度の理解力はあると評価できました。本人の意思の表出(発語)はほとんどない状態でしたが、笑ったり嫌そうな顔をしたり、そんな表情がAさんとのコミュニケーションの手段になっていました。 それまでは、生活のほとんどをベッド上で過ごしてきたため、その問題点として床ずれの予防などが考えられてきましたが、「Aさんに何かできることはないか?」と具体的に考えるようになったときにでてきたことが、「座位」の能力を評価することでした。 これは、私の勤めていた特養の中の職員の受けた研修で、「座る」ということは全身の筋肉の緊張を和らげる効果があるということを知ったことがきっかけとなっています。 そのほかにもいろいろな情報収集をした結果、寝たきりだったAさんに座位をとらせてみてはどうか?という考え方が浮かんだのですが、1年以上ベッド上での生活を送ってきたAさんです。いきなり『座らせる』のは無理です。そこで座位の能力についてしっかりと評価したうえで、実施しようということになったんですね。 私の働いていた特養では週に一回、非常勤のPT(理学療法士)が出勤してくれていたので、その方と一緒になって勧めることになりました。幸いにもAさんは、“職員が付き添う時間があれば 5分程度なら座っていられる”ことがわかり、取組みを開始したわけです。 まずは、ベッド上端座位からのスタート。寝たままの状態で生活を送ってきたAさんにとって、座るというものは「新しい刺激」でもあったようで、明るいいい表情になります。毎日職員の間で時間を決めて、週に一回のPTの出勤時に評価していく方法で、Aさんの座位について取り組むようになり、日を増すごとに、座っていられる時間が長くなると、今度は、「イスに座る」という目標がでてきます。 ご家族の面会も多かったAさんだったので、車椅子に座ることができれば家族とちょっとした「散歩」ができます。全身の拘縮も強かったのですが、施設にある車椅子を使ってAさんにあった座位のポジショニングを考え、Aさんは車椅子に座ることができました(^^) 次の目標は、「座って食事を取る」ということです。 こうして、新しい目標を作るところまではいったのですが、ある時期、風邪をひいたことを境にAさんは体調を崩したことで、ケア内容が安静中心のものとなり、そのままターミナルケアへと移行・・・そして永眠を迎えます。 「Aさんは私たちの介護に満足していたのだろうか?」「Aさんの生活はAさん自身満足していたのだろうか?」ということは、誰にも分からないAさん本人だけが知ることかもしれません。わからないことだったけれど、私をはじめ介護職員たちはAさんに「座る」という動作を取り戻してもらうためにケアを進めてきました。 それは、そうすることでAさんは生活の幅が広がり、心身の機能も向上すると思っていたからです。そして、もう一つ、私達心をひきつけてならなかったのが、Aさんが座ったときの、優しく穏やかな笑顔でした。 介護がもたらすこと 『座る』という動作は、健常者からすると、意識することのない単純な動作かもしれません。でも、この無意識の動作を確保していることが、いろいろな場面で広がりを持つことになると思います。施設での高齢者は、こうした単純な動作や機能を喪失している方が多く、その単純な動作や機能を取り戻すことは本当に介護労力を必要とします。でも、その労力に『介護の醍醐味』が詰まっているのかもしれません。 ケアプランが充実すれば、介護の仕事も充実すると思います。介護業界の就労状況は厳しい状況が続いていても、それでも介護が好きと言うことができるのは、やっぱりそこに「何か」があるからなんですよね。「何か」は、それぞれに応えがあるとおもいます。そして、それは、利用者がくれるものです。 事例を通して感じたことを書いてみました(^^)/ |
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